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専門用語解説『ニクロム線』

2021.04.01

1. 用語の意味と基本解説(初心者向け)

  • 用語名:ニクロム線

定義

ニクロム線とは、ニッケル(Ni)とクロム(Cr)を主成分とする合金で作られた電熱線のことです。
一般的にニッケル約60〜80%、クロム約20%前後を含む耐熱合金線を指し、電気抵抗が比較的高く、酸化や高温に強いため、電気エネルギーを熱に変換するヒーター材として利用されます。

一般的な用途・事例
ニクロム線は「電気を流すと発熱する」という特性を活かして、幅広い場面で使われています。一般的な用途と具体的には下のとおりです。

1. 家庭用電熱器具
電気ストーブ、オーブントースター、ヘアドライヤー
こたつ、電気コンロ


2. 工業用加熱機器
電気炉、乾燥炉、加熱炉
樹脂加工やゴム加工用ヒーター


3. 実験・教育用途
理科実験用ヒーター(電熱器、アルコールランプ代替)
抵抗体としての利用


4. 特殊用途
発泡スチロールカッター
温度制御機器の部品
工業部品の試験用負荷抵抗

2. 技術的な詳細・現場での使われ方(専門向け)

  • 技術的な仕組み

ニクロム線は電気抵抗によるジュール熱を活用する仕組みです。以下に特徴を記載します。

 電気抵抗によるジュール熱
ニクロム線は 電気抵抗率が高い合金(ニッケルとクロムの合金)でできており、この線に電流が流れると、抵抗によってエネルギーが熱に変換されます。この現象を ジュール熱 と呼びます。


耐熱性と酸化被膜の安定性
ニクロム線は 1,000℃前後でも安定して使えるのが特徴です。表面にできる 酸化クロム皮膜(Cr₂O₃) が保護層となり、空気中でも線が酸化しても壊れにくいため、長時間の赤熱運転が可能です。


コイル形状による効率的な発熱
実際のヒーターではニクロム線を コイル状(バネ状)に加工します。こうすることで発熱面積を広くできるため、長い抵抗値を小さな空間で確保することが可能です。


温度制御との組み合わせ
ニクロム線単体では「流れた電流に応じて発熱するだけ」なので、実際の装置では サーモスタット、温度センサー、コントローラー と組み合わせて、必要な温度を維持するように制御されています。
  • 他の用語との違い

抵抗ヒーター用の発熱体の系統は金属系とセラミック系に大別できます。代表的な発熱体を以下にまとめました。

材料系統耐熱温度(目安)主な特徴代表的な用途
ニクロム線(Ni-Cr)金属系~1,100℃・酸化に強く長寿命・安定した発熱・加工しやすい家庭用ヒーター(ストーブ、ドライヤー、トースター)、中温電気炉、実験器具
鉄クロム線(Fe-Cr)金属系~1,300℃・抵抗率が高い工業炉、乾燥炉、コスト重視の加熱装置
カンタル線(Fe-Cr-Al)金属系~1,400~1,500℃・酸化皮膜で高温でも安定・高抵抗率で短い線でも発熱可能高温工業炉、セラミックス焼成炉、金属熱処理炉
モリブデン線(Mo)金属系~1,700℃(真空・不活性雰囲気)・高融点金属・酸化に弱いので大気中では不適・真空や不活性雰囲気で強い真空炉、特殊合金の熱処理
タングステン線(W)金属系~2,500℃以上(真空・不活性雰囲気)・最高融点の金属(3,400℃)・酸化に非常に弱い・強力な発光や高温発熱白熱電球フィラメント、ハロゲンランプ
炭化ケイ素(SiC)セラミック系~1,600℃・セラミック材料で酸化雰囲気でも使用可・高温でも安定して長寿命工業炉、ガラス製造、半導体プロセス
窒化ケイ素(Si₃N₄)、窒化アルミニウムセラミック系~1,200~1,400℃・耐熱衝撃性に優れる・耐薬品性良好半導体製造、特殊化学プロセス用加熱
  • 現場でのメリット / デメリット
    • メリット
1.安定した発熱性能:抵抗値が安定しており、通電するとすぐに均一に発熱する。


2.耐酸化性が高い:表面にできる 酸化クロム皮膜 が保護層となり、大気中でも酸化劣化しにくい。


3.中温域で長寿命:1,100℃程度なら繰り返し加熱しても比較的長寿命。


4.加工性が良い:線材をコイル状に巻いたり、必要な形状に成形しやすい。
  • デメリット
1.衝撃や曲げに弱い:細い線は特に折れやすく、コイル形状に加工した場合も過度な曲げや振動で断線する可能性がある。


2.酸化による寿命低下(極端高温の場合):長時間1,100℃付近で使用すると酸化が進み、線が脆くなりやすい。


3.応力によるクリープ変形:高温で長時間使用すると、線が徐々に伸びる「クリープ現象」が発生する。

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