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焼成炉とは?基礎から学ぶ種類と仕組み|焼成とアニール処理の違いも解説

2025.09.02
焼成炉とは?焼成とアニール処理の違いも解説

「焼成とアニールの違いがよくわからない…。」とお困りではありませんか?

混同されることが多い焼成とアニール(焼鈍)ですが、どちらも熱処理でありながら大きな違いがあります。

本記事では焼成の基礎からアニールの違いまでわかりやすく解説しています。遠赤外線加熱による加熱炉についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。

焼成炉とは?加熱対象とその目的

焼成炉について、加熱対象と目的を解説

焼成炉とは、対象となるワークを加熱して化学的・物理的な変化を起こさせるための装置です。主にセラミック・金属粉末・樹脂などが対象のワークです。

焼成炉は単にワークを加熱するだけでなく、素材の性質そのものを変化させるために使用します。代表的な工程は以下のとおりです。

工程名特徴
焼結金属やセラミックの粉末を融点より低い温度で加熱し、粉末粒子同士を結合させて焼き固める工程
脱脂成形されたセラミックや金属部品からバインダー(結合剤)を除去する工程
ろう付け素材同士を接合する技術で、特に異種金属の接合に用いられる工程

いずれも「素材を焼き固める」という意味合いでとらえておけば問題ないでしょう。

例えば、セラミックは、粘土やアルミナ、ジルコニアといった無機物を高温で焼成することで作られます。焼成炉の熱によって、粉末状の粒子が互いに結合し、陶器やタイル、さらには電子部品や医療用インプラントといった硬くて丈夫な製品を作り出すイメージです。

「魚の焼成炉」という装置もありますが、これは単に魚を焼くという調理行為を指しており、工業分野での焼成とは意味合いが異なるので混同しないようにしましょう。

焼成とアニール(焼鈍)の違いとは? 

焼成 アニール (焼鈍)
目的粉末を焼き固める内部ひずみを取り除き、柔らかくする
対象粉末状のセラミックや金属加工された後の金属やガラス、樹脂
プロセス粉末を融点以下の温度で加熱し、粒子を結合させて緻密な製品にする加工で生じたひずみや応力を緩和し、材料の加工性を高める
結果強度、密度、硬度が向上した新しい固形物が作られる柔らかさ、延性、靭性が回復する
加熱温度比較的高温(800~2,000℃以上)比較的低温(~1,000℃以下)

焼成と混同しやすいのが、アニール(焼鈍)と呼ばれる工程です。前述のとおり、焼成は対象のワークを加熱して物理的・化学的に変化させて固める工程であり、これによって高密度で強度のある製品が完成します。

一方のアニールは主に金属や樹脂などの加工後に発生した残留応力を取り除くための熱処理です。硬くて脆くなった材料を加熱して、ゆっくりと冷却することで、応力の再蓄積を防止して柔軟性や延性、靭性を回復させます。

焼成は高温で素材を硬くする、アニールは低温で素材を柔らかくするとイメージしておけばよいでしょう。

焼成炉の主な種類

焼成炉には主に以下の種類があります。

  • 電気抵抗炉
  • ガス炉
  • 遠赤外線炉
  • 誘導加熱炉

それぞれの特徴を簡単に確認していきましょう。

電気抵抗炉

電気抵抗炉とは、電熱線などの発熱体に電気を流し、その電気抵抗によって発生する熱を利用して加熱する炉のことです。私たちの身近な製品で考えると、トースターや電気ストーブをイメージするとわかりやすいでしょう。

温度制御がとても簡単且つ精密なので、厳密な温度管理が必要な焼成工程に向いています。またガス炉のように燃焼を伴わないため、炉内の雰囲気がクリーンに保てるのも特徴です。

ガス炉 

ガス炉はガスバーナーで燃料を燃焼させて、その熱を利用して焼成を行います。主な燃料は天然ガスやプロパンガスです。

ガス炉は大型化しやすく大量生産に向いています。電気炉と比較してランニングコストが安価に済む傾向です。

ただし、燃焼ガスが発生するため、炉内の雰囲気をコントロールするのには向いていません。

遠赤外線炉 

遠赤外線炉は、遠赤外線のエネルギーを利用して焼成を行います。加熱効率が高く、加熱時間が短くなるのがメリットです。遠赤外線が対象のワークに吸収されると、分子振動が起こり、内部まで熱が伝わりやすくなります。

ただし、遠赤外線はセラミックなどが約100~600℃になる時に発せられる電磁波のため、高温の焼成には対応できません。脱脂や予備焼成などに使用されることが多い加熱炉です。

遠赤外線加熱の仕組みについては以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

誘導加熱炉

誘導加熱炉は、高周波電磁誘導を利用して加熱する炉です。炉内に設置されたコイルに高周波電流を流すと、その周りに強力な磁場が発生し、炉内にある金属などの導電性物質に渦電流を発生させます。この渦電流による抵抗熱で、物質そのものが内部から急速に発熱します。

主に金属の焼結や溶融、ろう付けなどに使われる加熱炉です。

遠赤外線焼成炉の特徴とメリット 

遠赤外線焼成炉の特徴とメリットを解説

遠赤外線焼成炉には以下の特徴とメリットがあります。

  • 比較的低温の脱脂や予備焼成で使用される
  • 樹脂やセラミックとの相性が良い
  • 放射加熱による効率の良い加熱

比較的低温の脱脂や予備焼成で使用される 

前述したとおり、遠赤外線加熱に使用される熱源は600℃程度までであり、1,000℃を超えるような本格的な焼成工程では遠赤外線炉は使用されません

成形体の内部にある有機バインダー(接着剤)を除去する脱脂工程や成形体を軽く固める予備焼成の用途で使用されることが多く、本格的な焼成工程の前工程の加熱炉として非常に効果的です。

樹脂やセラミックとの相性が良い

遠赤外線の波長は樹脂やセラミックが持つ吸収波長域と相性が良く、効率の良い加熱が可能です。逆に金属は遠赤外線を反射する特徴があるため、遠赤外線での加熱には適しておりません。

素材別の遠赤外線加熱との相性については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひお読みください。

放射加熱による効率の良い加熱 

遠赤外線加熱は熱風のように空気を介さず加熱対象のワークを直接加熱できるため、非常に効率の良い加熱が可能です。加熱効率が良いため、時短や省エネにつながる加熱炉として注目されています。

遠赤外線加熱の特徴については、以下の記事で詳細を紹介しています。

TPR商事の加熱炉製品紹介 

TPR商事の加熱炉製品紹介
名称卓上加熱炉樹脂硬化炉
型式STH-08QSTH-14QSFP-03L
外形寸法L1,000×W525×H530mmL1,600×W775×H1,140mm

TPR商事では上の表にある遠赤外線加熱炉を標準炉としてご準備しております。いずれも遠赤外線のパネルヒーターを搭載しており、ヒーターの最高温度は500℃まで設定が可能です。

ヒーターの最高温度が500℃までなので、金属やセラミックなどの本格的な焼成工程では使用できませんが、樹脂やセラミックのアニール工程では多数のご採用実績があります。標準炉以外でオーダーメイドでの加熱炉製作も可能ですので、気になる方はTPR商事までお問い合わせください。

用途に合わせた加熱炉の選定が大切!

焼成炉は金属やセラミックを高温で加熱することで成形するために使用されます。温度帯は800~2,000℃と高温であり、遠赤外線加熱の領域では対応が難しい場合がほとんどです。

一方、比較的低温で処理されるアニール(焼鈍)の工程では遠赤外線加熱が広く使用されています。TPR商事でも遠赤外線加熱によるアニール炉を製作していますので、効率よくアニール処理を行いたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。