定義
| 「真空成形(vacuum forming)」とは、加熱して軟化させたプラスチックシートを型に密着させて成形する方法のことです。真空ポンプなどで空気を吸引し、シートを金型に密着させることで、立体的な形状を作ります。 |
基本的な役割
真空成形の基本的な役割は以下のとおりです。
| 1.成形品の量産 プラスチックシートを短時間で加熱・成形できるため、製品を効率よく量産できます。 2.軽量で高精度な形状の再現 薄肉で軽量ながら、金型形状を正確に転写できるため、外観品質や寸法精度を確保できます。 3.コスト削減 射出成形と比べて金型費用が安く、短納期で試作・製品化が可能です。 |
「真空成形」は単に“吸い付けて形を作る”工程に見えますが、加熱・吸引・冷却・離型の各工程で、材料特性や成形条件が緻密に制御されています。
| 1. 構造的な仕組み ヒータユニット:遠赤外線ヒータなどでシートを軟化温度まで加熱。 型(モールド):金属や木材などで製作され、製品形状を決定する。 真空ポンプ:シートと型の間の空気を吸引して密着させる。 冷却装置:成形後にシートを冷却・硬化させて形状を固定。 2. 熱的・材料的な仕組み シートの加熱温度は、材料によって異なります(例:PET 120〜160℃、ABS 150〜180℃など) 加熱ムラや温度過昇は、厚み不均一やシワの原因となります。 吸引圧によって、シートが型の細部にまで密着。 成形後は冷却速度を制御し、残留応力や反りを防止します。 |
真空成形と混同されやすい成形方法には、圧空成形・圧空真空成形・射出成形などがあります。以下に主な違いを示します。
| 用語 | 意味・特徴 | 真空成形との違い |
| 圧空成形 | 加熱したシートを圧縮空気で型に押し当てて成形する方法。 | 真空成形よりも細部の転写性が高いが、設備コストが高い。 |
| 圧空真空成形 | 圧空と真空を併用する成形法。 | 真空成形の上位互換で、より精密な成形が可能。 |
| 射出成形 | 溶融樹脂を金型に射出して固める成形法。 | 材料ロスが少ないが、金型コストとサイクルタイムが大きい。 |
| ブロー成形 | 中空体(ボトル等)を作るための成形法。 | 真空成形はシート材を使用し、中空体には不向き。 |
| メリット | 内容 |
| ① 設備コストが低い | 射出成形に比べて金型・設備費が安く、少量多品種にも対応。 |
| ② 成形サイクルが短い | 加熱→吸引→冷却までの工程が数十秒程度で完了。 |
| ③ 軽量で高精度な外観 | 薄肉でも強度があり、外装部品やカバーなどに適する。 |
| ④ 試作・設計変更が容易 | 金型修正が容易で、試作品やカスタム部品にも向く。 |
| ⑤ 材料利用効率が高い | シート材を効率よく使い、歩留まりを向上できる。 |
| デメリット | 内容 |
| ① 肉厚のばらつき | 成形時に樹脂が引き延ばされるため、深い形状では角部が薄くなりやすい。 |
| ② 寸法精度が限定的 | 真空による成形圧が一定でないため、微細寸法や公差管理が難しい。 |
| ③ 材料の制約 | 主に熱可塑性樹脂(ABS、PET、PVCなど)に限定され、熱硬化性樹脂には不向き。 |
| ④ 生産数量の限界 | 高速量産には不向きで、射出成形のような大量生産性は劣る。 |
| ⑤ 後加工が必要な場合がある | 成形後のトリミングや穴あけなど、二次加工を要するケースが多い。 |
このように真空成形は、「低コスト」「大型対応」「試作の柔軟性」を強みとする一方、「寸法精度」「肉厚均一性」に注意が必要な加工法です。
用途と製品設計のバランスを考慮して導入することで、最適な成形品質とコスト効率を両立できます。