定義
マルテンサイトとは、オーステナイトを急冷(焼入れ)したときにできる、非常に硬い鉄の結晶構造です。急冷されて炭素が閉じ込められた硬い状態の鉄とイメージするとわかりやすいでしょう。 |
一般的な用途・事例
マルテンサイトはとても硬い一方で脆さもあるのが特徴であり、以下の用途で使用されています。
1. 刃物・カッター類 包丁、ナイフ、ハサミ、工業用カッターで使用。マルテンサイトは硬いため、切れ味が良く、摩耗に強い。 2. 工具類 ドリル、タップ、金型、レンチ、ハンマーで使用。高い硬度が求められるため、焼入れによってマルテンサイト組織に変えて強度を確保する。 3. 機械部品 歯車、シャフト、スプリング、ベアリングなど摩耗や衝撃に耐える必要がある部分に使われる。 4. 構造用鋼・耐摩耗鋼 建設機械や車両の部品などでも使用されている。摩耗に強く、寿命を延ばせる。 |
「マルテンサイトは、オーステナイトを急冷することによって炭素が閉じ込められ、結晶格子が歪んでできる非常に硬い構造」というのが技術的な仕組みです。以下で詳しく解説します。
1.出発点はオーステナイト 鉄は約900〜1,400℃でオーステナイト(面心立方:FCC)になる。 オーステナイトは炭素を最大約2%と多量に溶かし込める。 2.オーステナイトを急冷する 急激に冷やすことで、炭素が外に拡散する時間がなくなる 本来なら常温で安定するフェライト(BCC)などに変化するはずが、炭素が邪魔して変態できない 3.急冷でできるのがマルテンサイト オーステナイトの格子が無理やり変形して、体心立法が縦に伸びた「体心正方格子(BCT)」になる。 炭素が格子の中に閉じ込められて強く歪んだ状態となる。 ⇒この状態が高硬度をもたらしている。 |
鋼の代表的な3つの鉄の相(フェライト・オーステナイト・マルテンサイト)は、結晶構造・炭素の溶け方・硬さが違います。
相 | 結晶構造 | 炭素の溶解量 | 硬さ・性質 | 主な用途や特徴 |
フェライト(α-鉄) | 体心立方(BCC) | 最大0.02% | 柔らかく加工しやすい | 常温で安定。軟鋼や構造用鋼 |
オーステナイト(γ-鉄) | 面心立方(FCC) | 最大2% | 柔らかく靭性あり、熱処理前の状態 | 高温で安定。ステンレス鋼、熱処理前の鋼 |
マルテンサイト | 体心立方の歪んだ構造(BCT) | 不均一(炭素閉じ込め) | 非常に硬く脆い | 刃物、工具鋼、硬化鋼 |
1.非常に硬い:鋼の中で最も硬い組織。摩耗しにくく、耐摩耗性が必要な用途に最適 2.強度が高い:引張強度が高く、高負荷がかかる部品にも使える 3.熱処理で得られる:高温に熱した鋼を急冷するだけで作れるの |
1.脆い(靭性が低い):衝撃や繰り返し応力には弱い 2内部応力が大きい:急冷で格子が歪んだままで残留応力が高く、焼き戻しが必要 3.加工が難しい:硬すぎるため、切削加工や成形には向かない |