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専門用語記事『射出成形』

2021.04.01

1. 用語の意味と基本解説(初心者向け)

  • 用語名:射出成形

定義

「射出成形(Injection Molding)」とは、加熱して溶融した樹脂を金型内に高圧で射出し、冷却・固化させて製品を作る成形方法です。

基本的な役割

射出成形の基本的な役割は次の3点です。

1.複雑形状の高精度成形
他の成形方法では難しい細部・薄肉・微細構造を一体成形できます。組立や後加工の削減にもつながります。

2.大量生産への対応
サイクル生産で同一形状の製品を高精度に繰り返し生産できるため、量産に最適です。

3.材料特性の活用
ABS、PP、PC、ナイロン、PBTなど多様な熱可塑性樹脂に加え、ガラス繊維や難燃材などの機能性樹脂にも対応可能です。

2. 技術的な詳細・現場での使われ方(専門向け)

  • 技術的な仕組み

射出成形は、「溶融」「射出」「保圧」「冷却」「離型」という5つのプロセスで構成されています。それぞれの工程において、機械的・熱的・流動的な制御が緻密に行われます。

1. 構造的な仕組み
射出成形機は以下の主要ユニットで構成されています。
ホッパー:樹脂ペレットを供給する部分。乾燥機と一体化していることが多い。
シリンダー・スクリュー:樹脂を加熱・溶融しながら前方に輸送。
ノズル:溶融樹脂を金型へ射出する吐出口。
金型(モールド):製品の形状を決定する部分で、冷却機構を内蔵。
型締め装置:金型を高圧で密閉し、射出時の圧力漏れを防ぐ。シリンダー内ではスクリューの回転で樹脂が均一に溶融され、前方に蓄積。

設定圧力に達すると、スクリューが前進して樹脂を金型内に射出します。

2. 機械的な仕組み
射出成形機では、以下の要素が重要な役割を担っています。
射出圧力と速度:高粘度の溶融樹脂を細部まで充填させるために、高圧(100〜200MPa)で制御。
型締力:射出圧力に耐えるための力。成形品の投影面積に応じて、数十〜数千トンの力を発生。
スクリュー設計:樹脂の可塑化(溶融)効率や混練性を左右する。汎用、バリア、混練型など種類がある。
可塑化容量と保持圧制御:安定した樹脂供給と、収縮を補うための保圧制御を行う。

この一連の機械動作を精密に制御することで、寸法精度や外観品質を安定させます。

3. 熱的な仕組み
射出成形は熱可塑性樹脂の「融解→冷却→固化」を利用するプロセスであり、温度管理が最も重要です。

シリンダー温度:樹脂種類ごとに複数ゾーンで制御(供給・圧縮・計量部)
金型温度:冷却速度を制御し、結晶化や反りの抑制に影響。
ノズル温度:樹脂の熱劣化や糸引きを防ぐため、最適温度に維持。
冷却工程:成形サイクル時間の約半分を占めるため、効率化が品質・生産性に直結。

温度制御が不適切だと、ヒケ・ショートショット・バリ・銀条などの成形不良が発生します。
  • 他の用語との違い

射出成形と混同されやすい他の成形法との違いを下表に示します。

用語意味・特徴射出成形との違い
押出成形樹脂を連続的に押し出して一定断面形状を形成。連続生産に適すが、複雑形状は不可。
ブロー成形チューブ状の樹脂に空気を吹き込み中空体を成形。容器類に特化。射出は中実・精密形状に適す。
真空成形加熱シートを型に吸着して立体形状を作る。シートを利用する別工程。厚み均一性が限定的。
  • 現場でのメリット / デメリット
メリット内容
① 高い寸法精度と再現性金型精度と射出条件を安定化させることで、μm単位の寸法管理が可能。
② 複雑形状の一体成形複数部品を一体化することで、組立工数やコストを削減。
③ 表面品質が優れる金型表面仕上げを反映し、鏡面・梨地・模様などの再現性が高い。
④ 自動化・量産化が容易サイクル制御が確立しており、24時間運転・自動成形に対応可能。
⑤ 材料・添加剤の選択肢が豊富機能性樹脂やリサイクル材、ガラス繊維入り樹脂にも対応できる。
デメリット内容
① 金型コストが高い高精度な金型製作が必要で、初期投資が大きい。
② 成形条件の管理が難しい圧力・温度・速度のバランスが崩れると不良が発生。
③ 残留応力や反り冷却不均一によって内部応力が発生し、寸法変化や反りが起きる。
④ 材料切替・色替えに時間がかかるシリンダー内の樹脂洗浄が必要で、段取り替えに手間がかかる。
⑤ 大型品や厚肉品ではサイクルが長い冷却に時間がかかり、生産性が低下する。

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