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専門用語解説『オーステナイト』

2021.04.01

1. 用語の意味と基本解説(初心者向け)

  • 用語名:オーステナイト

定義

オーステナイトとは、鉄–炭素合金(鋼)の結晶構造の一つで、鉄に炭素やニッケルなどの元素が溶け込んだものです。鋼を熱すると鉄の中の炭素をたくさん吸い込むため、軟らかく粘りがある状態となります。

一般的な用途・事例
オーステナイトは高温で安定し、炭素を多く含むことができる性質を持つため、鋼の性質を活かしたさまざまな用途があります。

1. ステンレス鋼(オーステナイト系)
キッチン用品(鍋・包丁)、医療器具、建築内装、化学プラント設備などで使用。

2. 工具や金型の熱処理
刃物や金型を加熱して硬化処理する前段階。オーステナイト状態にすることで炭素を均一に溶かし、その後の急冷で硬いマルテンサイトを作れる。

3. 高強度鋼・耐熱鋼
ボイラー、ガスタービン、車両部品で使用。オーステナイト構造は高温でも強度を保ちやすく、耐熱性や靭性を確保できる。

4. 溶接工程
ステンレス鋼や合金鋼の溶接部。溶接後にオーステナイトができることで、ひび割れを防ぎやすくなる。

2. 技術的な詳細・現場での使われ方(専門向け)

  • 技術的な仕組み

オーステナイトの仕組みを技術的に説明すると、結晶構造と炭素の溶解性がポイントです。

1.結晶構造が面心立方格子(FCC)である
鉄は温度によって結晶の形(相)が変わる


常温〜約900℃:α-鉄(フェライト) → 体心立方(BCC)
約900〜1,400℃:γ-鉄(オーステナイト) → 面心立方(FCC)

面心立方(FCC)の特徴
・原子が立方体の角と面の中心に配置される
・空間が広いため、炭素などの小さい原子を多く溶かせる

2.炭素の溶解
フェライト(BCC)では炭素の溶解量は0.02%程度
オーステナイト(FCC)では最大2%程度まで炭素を溶かせる

3.温度依存性
オーステナイトは常温では不安定(炭素が多い場合)
急冷するとマルテンサイトに変化して硬化する
⇒この性質を利用して、鋼を硬くしたり、靭性を調整できる
  • 他の用語との違い

鋼の代表的な3つの鉄の相(フェライト・オーステナイト・マルテンサイト)は、結晶構造・炭素の溶け方・硬さが違います。

結晶構造炭素の溶解量硬さ・性質主な用途や特徴
フェライト(α-鉄)体心立方(BCC)最大0.02%柔らかく加工しやすい常温で安定。軟鋼や構造用鋼
オーステナイト(γ-鉄)面心立方(FCC)最大2%柔らかく靭性あり、熱処理前の状態高温で安定。ステンレス鋼、熱処理前の鋼
マルテンサイト体心立方の歪んだ構造(BCT)不均一(炭素閉じ込め)非常に硬く脆い刃物、工具鋼、硬化鋼
  • 現場でのメリット / デメリット
    • メリット
1.高温で安定:加熱しても形状が崩れにくく、熱処理しやすい

2.炭素を多く溶かせる:最大約2%まで炭素を溶かせるため、後の急冷でマルテンサイトを作れる

3.靭性が高い:柔らかく曲げや加工に強いので、成形しやすい

4.合金元素で常温安定化が可能:ニッケルやクロムを加えると、オーステナイトが常温でも安定する

  • デメリット
1.常温では不安定:高温専用の鉄の形で、普通に冷えると別の鉄の形に変わってしまう

2.硬さが低い:加工性は良いが、耐摩耗性や耐切削性は低い

3.コストが高い:ニッケルやクロムで高合金化すると材料費が上がる

4.磁性が弱い:磁力で固定したい用途には向かない

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