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発熱体に直接プラズマ溶射で遠赤外線ヒーターなのに高速昇温を実現

2025.07.01
発熱体に直接プラズマ溶射で遠赤外線ヒーターなのに高速昇温を実現のサムネイル画像

「セラミックヒーターを使っているけれど、昇温が遅くてもったいない気がする…。」とお悩みではありませんか?

QUTヒーターは遠赤外線ヒーターでありながら即時に昇温するTPR独自のヒーターです。

本記事ではQUTヒーターの昇温がなぜ速いのか、技術的な内容を含めてわかりやすく解説しています。セラミックヒーターの昇温時間を改善したいと考えている方は必見です。

遠赤外線ヒーターの基礎理論

遠赤外線ヒーターでの加熱を検討するにあたっては、以下2点を正しく理解することが大切です。

  • ・遠赤外線の波長域と「熱吸収」メカニズム
  • ・放射・対流・伝導の各方式の違い

それぞれを確認していきましょう。

遠赤外線の波長域と「熱吸収」メカニズム 

波長域の説明シート

遠赤外線は、上の画像のとおり3μm~1mmの波長域を持つ電磁波です。その中でも工業用途では2.5~30μmの遠赤外線が広く活用されており、遠赤外線ヒーターは熱と同時にこの波長域の遠赤加熱を放射しています

分子振動のイメージ図
画像:分子振動のイメージ

遠赤加熱が物質に当たると分子振動が活発になり、表面の温度が高くなります。遠赤外線ヒーターから発せられる遠赤外線の波長域と物質を構成している分子の固有振動周波数が近ければ近いほど、共鳴吸収が起こりやすくなるため、効率的な加熱が可能です。

遠赤外線加熱と聞くと「被加熱物の中から温める」というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、これは誤解です。あくまで被加熱物の表面からの加熱であり、熱吸収によって内部まで熱が伝わりやすい加熱方式だと覚えておきましょう

放射・対流・伝導の各方式の違い

放射・対流・伝導のイメージ図

主な加熱方式には上の画像のとおり、放射と対流と伝導の3種類があります。

放射

放射は発熱体から発せられたエネルギーを被加熱物が熱吸収して温度が上がる加熱方式です。QUTヒーターの加熱方式であり、対流や伝導のように物質を介さずに加熱ができるため、とてもクリーンな加熱を実現します。

対流

対流加熱の代表例は家庭で使用されるエアコンです。部屋全体の温度を均一にするため、熱を空気によって運びます。工業用途でも広く使われており、被加熱物の形状にこだわらず、時間をかければ一定の温度に加熱できるのが特徴です。

伝導

伝導は物質同士を直接触れさせることで熱を伝える加熱方式で、ホットプレートが代表例です。直接ワークを加熱するため、他の加熱方式より目標温度までの到達時間が早くなります。ただし、接触していない面は温度が上がりにくいため、温度ムラが出やすいのがデメリットです。

遠赤外線ヒーターの波長域や熱吸収のメカニズム、3つの加熱方式については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

QUTヒーターの高速昇温を支える『プラズマ溶射』の技術

QUTヒーターは一般的なセラミックヒーターとは異なり、遠赤外線を発するセラミックが発熱体に直接コーティングされています。通電して発熱体の温度が上がることで、セラミックも加熱されて遠赤外線が出るという仕組みです。薄いニクロム線を発熱体として使用しているQUTヒーターは通電開始から15秒〜30秒で最高温度600℃に到達します。

『プラズマ溶射』と呼ばれる表面処理工程が、QUTヒーターの高速昇温を支えています。プラズマ溶射とは、プラズマジェットによってセラミック粉末を溶かして発熱体に吹き付ける表面処理方法です。高速かつ高温で発熱体に吹き付けられたセラミックは、高密度で密着して合金層を形成します。

このプラズマ溶射の技術は、ピストンリング・シリンダライナメーカーのTPRの表面処理技術を応用したものです。以下の動画でプラズマ溶射の様子をご覧ください。

QUTヒーターのメンテナンス性と寿命の技術的考察

QUTヒーターには以下2つの特徴があります。

  • ・突入電流が小さく、ノーメンテナンスで長寿命
  • ・セラミックコーティングの剝離リスクが低い

それぞれについて技術的考察を交えながら解説します。

突入電流が小さく、ノーメンテナンスで長寿命

QUTヒーターの発熱体はニクロムまたは鉄クロムであり、突入電流が極めて小さいのが特徴です。突入電流とは通電開始時に一時的に定格電流よりも大きな電流が流れる現象のことで、抵抗変化が大きな発熱体で起こります。

ハロゲンランプに使用されるタングステンは突入電流が非常に大きい発熱体です。突入電流が大きいと発熱体に大きなストレスがかかり、劣化が促進されます。劣化が進むと、発熱体の一部が細くなったり、ムラが生じたりして、その部分に電流が集中することによって発熱量が増加するため、断線しやすくなります。頻繁に電源をON・OFFする環境であれば、劣化は顕著です。

突入電流が極めて小さいQUTヒーターは発熱体の劣化が起こりにくく、ノーメンテナンスで長寿命を実現しています。突入電流があるハロゲンヒーターの寿命は一般的に約2,000~5,000時間と言われていますが、QUTヒーターは約10,000時間と長寿命です。使用環境によっては20,000時間以上問題なく使用できているケースもあります。

セラミックコーティングの剥離リスクが低い

ニクロムとセラミックの剥離原理の画像

前述したとおり、QUTヒーターは発熱体にセラミック粉末をプラズマ溶射で表面処理しています。高圧で噴射されたセラミック粉末は発熱体と強固に合金化しているのが特徴です。

他社製の類似品には、遠赤外線を発するセラミック塗料を焼付塗装で表面処理しているものもあります。遠赤外線ヒーターは上のイラストのとおり、熱によって発熱体が伸び縮みするため、焼付塗装のセラミック層は経年劣化で発熱体から剥離するリスクが高くなります。

プラズマ溶射で強固な合金層を形成しているQUTヒーターは、セラミック層が剥離するリスクが極めて低いのが特徴です。遠赤外線ヒーターはセラミックが加熱されることで遠赤外線を放射する仕組みのため、セラミック層が剥離しないということは性能劣化がないということになります。

QUTヒーターの運用サポートについては、以下のボタンからお問い合わせください。専用部署である機器営業部が責任を持って対応します。

モデル別パフォーマンス比較のポイント

QUTヒーターなどの遠赤外線ヒーターを含む放射加熱の熱源に関して、どうやって選定すれば良いかわからないという方は以下の項目で比較してみましょう。

  • ・ヒーターの昇温時間
  • ・最高使用温度
  • ・温度制御性
  • ・温度分布
  • ・寿命

代表的な4種類の放射加熱の熱源について、項目を整理した表を作成しました。

QUTヒーターセラミックヒーターカーボンヒーターハロゲンヒーター
ヒーターの昇温時間速い(約15~30秒)遅い(約10分)速い(約15秒)速い(約15秒)
最高ヒーター温度600℃500℃1,100℃2,000℃
温度制御性ヒーター温度で制御可能ヒーター温度で制御可能ヒーター温度では制御できないヒーター温度では制御できない
温度分布面での温度分布が良い面での温度分布が良い棒状ヒーターのため、面での温度分布は良くない棒状ヒーターのため、面での温度分布は良くない
寿命長い長い比較的長い短い

このようにそれぞれの熱源にメリットとデメリットがあることがわかります。用途に合わせて適切なヒーターを選定することが、加熱設備を製造するうえでは最も大切です。

熱源選定のためのセルフチェック項目

QUTヒーターは発熱体にセラミック粉末を直接プラズマ溶射しているヒーターで、高速昇温と長寿命を実現したヒーターです。遠赤外線によって非接触でクリーンにワークを加熱できます。

加熱設備を検討する際は、まず以下の項目をセルフチェックしてみましょう。

  • ・加熱方式(放射・対流・伝導)
  • ・ヒーターの昇温や最高温度、制御性などのパフォーマンス
  • ・メンテナンス性と寿命
  • ・イニシャルコストとランニングコスト

もし熱源選定でお困りであれば、TPR商事までお気軽にお問い合わせください。お客様のご要望に合わせて、QUTヒーターにこだわらずに熱源を選定いたします。

また本記事で紹介したQUTヒーターについては、以下の記事でシリーズ毎の違いなど詳細を解説していますので、合わせてご覧ください。