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真空成形をゼロから理解|成形品質を決める成形前加熱について

2025.12.02
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「真空成形で、品質にバラつきが起こってしまう...。」とお悩みの人も多いでしょう。

真空成形は、比較的低コストで大型・薄肉の樹脂製品を成形できる工業用プロセスとして、多くの製造現場で採用されていますが、真空成形の品質は「樹脂シートの加熱状態」に大きく依存し、成形前加熱の均一性が最終品質を左右します。

本記事では、真空成形の基礎から射出成形との違い、加熱工程の重要性について解説しています。成形前加熱の改善につながる熱源についても紹介していますので、真空成形の改善をご検討の方は必見です。

真空成形とは

真空成形とは、加熱して軟化させた樹脂シートを金型に密着させる成形方法です。

樹脂シートを一定温度まで加熱し、柔らかくなったところで金型側に移動させ、真空ポンプで空気を吸い出すことでシートを型の形状に密着させます。その後、冷却して形を固定し、トリミングによって製品形状を仕上げる仕組みです。工程が比較的シンプルなため、設備投資が少なく、大型部材や薄肉形状の成形に適しています。

真空成形の工程は以下のとおりです。

  1. 1.樹脂シートをクランプして固定
  2. 2.加熱エリアで所定温度まで軟化
  3. 3.シートを金型上へ移動
  4. 4.真空吸引で密着
  5. 5.冷却
  6. 6.取り出し・トリミング

最も重要なのは2番の加熱工程です。樹脂シート全体を均一に加熱しなければ、金型に吸引された際に局所的な伸びが発生し、肉厚ムラや白化、変形などの不良につながるため、「いかに均一に加熱できるか」が品質と歩留まりを大きく左右します。

真空成形と射出成形の違い 

真空成形と射出成形は、どちらも樹脂成形の代表的な加工法です。

射出成形は溶融樹脂を高圧で金型に射出する方式で、寸法精度が高く、複雑形状も製造できます。金型が高額であり、設備も大型になるため、少量多品種や大型薄肉品には不向きです。

一方、真空成形は樹脂シートを加熱して型に吸着させる方式で、金型構造が簡易で安価です。大型製品や薄肉製品を低コストで製造できますが、寸法精度や細かな凹凸の再現性では射出成形に劣ります。

真空成形と射出成形で使用される、代表的な樹脂は以下のとおりです。

樹脂名特徴
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)衝撃強度が高く、外観性にも優れる。真空成形では家電パネルや自動車内装部品に多く使用され、射出成形でも幅広く使われる汎用樹脂。
PS(ポリスチレン)成形性が良く、食品容器やトレイなど軽量部材に多く採用。真空成形で特に使用されることが多い樹脂。
PET(ポリエチレンテレフタレート)透明性と耐薬品性が高い。真空成形ではブリスターパックなどの透明製品に使用され、射出成形でもボトルや容器で使用されることが多い樹脂。
PP(ポリプロピレン)軽量で耐熱性・耐薬品性に優れる。真空成形では加熱温度域が狭く難易度が高い。射出ではバンパーなど自動車分野で広く使用されている。

真空成形における「成形前加熱」の重要性

真空成形で最も重視される工程が「成形前加熱」です。シートを軟化させる温度域は樹脂によって異なり、また厚みや色、吸熱特性によっても最適温度が異なります。加熱ムラがあるとシートの伸びが不均一になり、金型への密着が弱くなり、局所的な白化や肉厚ムラが発生しやすくなります。

加熱工程は、製品品質や歩留まり、サイクルタイム、エネルギー消費にまで影響するため、真空成形の核ともいえる工程です。

成形品質は「加熱均一性」で決まる 

加熱均一性とは、シート全体が均一な温度に到達している状態のことです。

樹脂は温度分布の違いに敏感で、わずかな温度差でも伸びやすい部分と伸びにくい部分が生まれます。真空成形はシートの変形を利用する加工法であるため、温度ムラはそのまま形状ムラになるのです。

加熱が均一だと、金型への吸引・密着が滑らかに行われ、肉厚が均等で外観品質も安定します。

加熱ムラが発生すると起きる不良

加熱ムラがあると、以下のような不良が起こりやすくなります。

不良の名称不具合の現象
肉厚の不均一温度の高い部分が過伸びし、薄肉化する
白化局所的な過伸びにより樹脂が延伸限界を超えて白く濁る
変形・反り温度差による冷却収縮の違いが形状の歪みを生む
金型への密着不足温度が低い部分が十分に延伸できず細部再現性が悪くなる

不良の多くは加熱ムラに起因するため、優れた加熱方式の選定が真空成形の改善ポイントとなります。以下の記事もぜひ参考にしてください。

従来加熱方式の課題 

真空成形の加熱工程では、棒状ヒーターやセラミックヒーターが一般的に使用されてきました。これら従来方式には品質面・省エネ面で課題があります。

棒状ヒーターはシンプルで安価ですが、面状のシートに対して、部分的な加熱となり、温度ムラが起きやすいのがデメリットです。

セラミックヒーターは真空成形で広く用いられていますが、セラミック自体の熱容量が大きく、安定温度までの立ち上がりが遅いため、設定温度の小まめな変更ができません。結果として、待機時間中でもヒーターをOFFにできないため、エネルギーロスが大きくなります。棒状ヒーターと比較して品質は安定しますが、省エネという観点ではデメリットが残る加熱方式です。

遠赤外線ヒーターQUTによる加熱最適化 

棒状ヒーターやセラミックヒーターの課題を解決する加熱方式として注目されているのが、遠赤外線ヒーター「QUTクイックウルトラサーモ」 です。発熱体にセラミックを直接溶射した構造により、立ち上がりの速さ、均一性、省エネ性を高めています。

QUTは薄い帯状の発熱体を使用しているため、熱容量が小さく、昇温するまでの立ち上がりが速いのが最大の特徴です。そのため、待機時間中にヒーターをOFFにする制御が可能であり、従来の加熱方式より電力ロスを削減できます。

発熱体に遠赤外線をバランス良く放射するセラミックを直接溶射しているのも特徴の一つです。耐久性が高く、長期間使用してもセラミックの剥離が無く、遠赤外線ヒーターとしての性能が低下しません。

QUTは放射特性が均一で、シート全体にバランスの良い熱を与えることが可能です。結果として、肉厚ムラや白化、変形などの不良発生率が低下し、歩留まりが向上します。

加熱工程最適化による効果

実際の現場では、QUTの導入により待機時間中にヒーターをOFFにできる点が特に評価されています。

サイクルタイムの中でシート交換や金型交換がある場合、その待ち時間は数十秒〜数分に及ぶこともありますが、従来ヒーターではこの間も通電を続ける必要があり、電力ロスが発生していました。

QUTは急昇温が可能なため、待機時間はヒーターをOFFにする制御が可能です。次サイクル開始の直前にONしてもすぐに目標温度に達します。この仕組みにより、消費電力が約30%以上削減した事例もあり、省エネと品質安定を両立する加熱方式として導入が進んでいます。

真空成形の改善は「加熱工程」から始まる

真空成形の品質を左右するのは成形前加熱です。加熱ムラは肉厚、外観、寸法精度に影響し、歩留まりの低下にもつながります。製品品質の安定化、サイクル短縮、そして省エネ効果によるコスト改善のためにも、真空成形の加熱工程を見直してみてはいかがでしょうか。

TPR商事では、真空成形の熱源として即熱式の遠赤外線ヒーター『QUTクイックウルトラサーモ』をご用意しております。お客様の成形したい樹脂に合わせて、加熱試験を行うことも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。