「遠赤外線ヒーターは加熱の効率がよいと聞くけど、なんで?」と疑問に思われる方も多いでしょう。
遠赤外線ヒーターの加熱効率を知るためには、その他の加熱方式についても正しく理解することが大切です。
本記事では遠赤外線ヒーターの基礎から加熱方式の原理、ヒーターの種類まで幅広く解説しています。
遠赤外線ヒーターとは、その名のとおり「遠赤外線」という電磁波を利用して物体を温める加熱機器です。私たちの身近な例で考えると、冬場に使用する家庭用のセラミックヒーターの暖房機が当てはまります。
上の画像で示すとおり、電磁波の一種である赤外線の中で3μm~1mmの波長域にあるものが遠赤外線です。物質が熱を持つことで自然に放出される遠赤外線は、人間の体からも発せられています。
セラミックは遠赤外線を効率よく発生させる素材で知られており、100~600℃程度まで加熱して使用するのが遠赤外線ヒーターです。この時に熱と同時に放射されるのが2.5~30μmの赤外線であり、工業用途で数多く利用されています。
ちなみに波長とは上の図で示すとおり、「光の波の1回分の長さ」です。物質の温度が高くなればなるほど、放射される電磁波の波長は短くなります。温度が高くなり、波長が短くなるにつれて、可視光線に近づいていくため、物質も光を帯びるようになるのが特徴です。
遠赤外線ヒーターは100~600℃で使用され、この温度帯であれば発光はほとんどありません。激しく光りながら加熱を行うハロゲンヒーターは発熱体の温度が2,000℃近くなる「近赤外線ヒーター」となります。
ヒーターの加熱方式は大きく分けると以下の3種類です。
それぞれの加熱方式を簡単に解説していきます。
対流とは熱が気体や液体の動きによって運ばれる現象のことです。空気は暖められると密度が小さくなり軽くなるため、上昇していきます。逆に冷えている空気は下降していき、この空気の温度差によって発生する流れが対流です。身近な例で考えると、家庭で使用するエアコンが当てはまります。
工業用途で使用される場合は空間を均一な温度にするため、ワークの形状を問わず、一定の温度に加熱できるのがメリットです。一方、空間全体を加熱するのに時間がかかる、ホコリが舞う可能性がある、空気の流れによっては温度ムラができるなどのデメリットもあります。
伝導は物質同士を直接触れさせることで、温度を高い方から低い方へ伝える加熱方式です。身近な例で考えると、湯たんぽが当てはまります。
工業用途で使用される代表例がホットプレートです。ホットプレートによって直接ワークを加熱するため、目標温度まで素早く到達できるメリットがある一方で、接触していない面が温度ムラになりやすい、広範囲の加熱には向かないなどのデメリットもあります。
放射は発熱体から電磁波で発せられたエネルギーを対象物質が吸収して温度が上がる加熱方式です。輻射と呼ばれることもあります。
遠赤外線ヒーターは放射の原理を利用した加熱機器です。対流と伝導は空気やホットプレートなどを介して物質を暖めるのに対して、放射は物質を介さずに加熱ができるため、クリーンな加熱を実現します。
工業用途でも広く利用されており、非接触でワークのみを加熱できるため、とても効率的な加熱方式です。ただし、電磁波は直進性のため、高低差があるワークや複雑な形状のワークの場合は、他の加熱方式と組み合わせる必要があります。
遠赤外線ヒーターは以下2つの物理現象を利用して、効率的な加熱を実現しています。
2つの物理現象について概要を確認しましょう。
私たちの周りにあるすべての物質は小さな分子の集まりからできています。これらの分子は絶えず振動したり、回転したりと動いており、これが分子振動です。分子振動が活発になるほど、物質の温度が高くなります。遠赤外線ヒーターは電磁波を物質に届けて分子振動を活発にするため、効率的な加熱が可能です。
物質を構成している分子は固有の振動周波数を持っています。この振動周波数に近い周波数の電磁波を受けると効率良くエネルギーを吸収して、振動が大きく増幅されます。これが共鳴吸収です。
共鳴吸収は「グラスと高い声」を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。人がグラスを前にして高い声で歌い続けると、グラスが振動して割れることがあります。グラスが持つ固有振動数と歌声の周波数が一致して、共鳴吸収が起こって分子の振動が増幅された例です。
遠赤外線ヒーターは前述したとおり、加熱時に波長が2.5~30μmの電磁波を放射します。水や樹脂といった一般的に遠赤外線と相性が良いとされる物質は、波長が約3~20μmの領域で共鳴が起こりやすく、効率的な加熱が可能です。
赤外線の種類 | 波長域 | 発熱体温度 | 適した用途例 |
近赤外線 | 短波 約0.78~2.5μm | 約1,000~3,000℃ | 金属の加熱 |
中赤外線 | 中波 約2.5~4μm | 約700~1,000℃ | 塗装の乾燥 |
遠赤外線 | 長波 約3μm~1mm | 約100~600℃ | 水や樹脂の加熱 |
上の表は赤外線の波長域による名称の違いや発熱体温度、適した用途をまとめたものです。前述したとおり、発熱体温度が高くなるほど波長は短くなります。
波長の違いはワークへの透過性に影響します。近赤外線(短波)はワークへの透過性が高く、ガラスや透明な樹脂などを透過しやすく、内部まで熱エネルギーが伝わりやすいのが特徴です。また発熱体の温度が高いので、金属の予備加熱や熱処理に適しています。
一方の遠赤外線(長波)は透過性が低いため、ほとんどの物質の表面で吸収され、内部へは伝導によって熱が伝わっていくのが特徴です。近赤外線と比較して発熱体の温度も低いため、加熱自体はマイルドになりますが、水分や樹脂などが持つ吸収波長域と共鳴するため、効率的に加熱できます。
中赤外線(中波)は近赤外線と遠赤外線のちょうど中間的な性質を持つ波長です。ハロゲンヒーターなど近赤外線ヒーターはパワフルな加熱ができる分、寿命が短くなるというデメリットがありますが、カーボンヒーターは長寿命且つパワフルな加熱を実現します。
ヒーターの種類 | 発熱体温度 | 主に発する赤外線 |
セラミックヒーター | 約100~600℃ | 遠赤外線(長波) |
カーボンヒーター | 約1,100℃ | 中赤外線(中波) |
ハロゲンヒーター | 約2,000℃ | 近赤外線(短波) |
工業用途で使用される赤外線ヒーターで代表的なのは、上の表で挙げた3種類です。
セラミックヒーターは、ニクロム線などの発熱体でセラミックを加熱することで遠赤外線を出すヒーターです。
他のカーボンヒーターやハロゲンヒーターは発熱体自体に電気を流して高温にしますが、セラミックは一般的に絶縁性であるため、上図のとおりニクロム線などの発熱体が別に必要となります。そのため、カーボンヒーターやハロゲンヒーターと比較すると熱の応答性が劣るのが弱点です。
TPR商事では一般的なセラミックヒーターの弱点である熱応答性を克服した『QUTヒーター』を製造しております。発熱体自体にセラミックを溶射するTPR独自の技術によって、熱のクイックレスポンスを実現しました。
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カーボンヒーターは、炭素繊維の発熱体(カーボン発熱体)に電気を流して発熱させて主に中赤外線を出すヒーターです。カーボン発熱体は空気中では酸化して劣化するため、不活性ガスが封入されたガラス管に覆われているタイプが多く使われています。
カーボンヒーターから発せられる中赤外線は、水と非常に相性が良いため、約60%が水分で構成されている人体も暖めやすく、一般家庭の暖房機器でも主流のヒーターです。
ハロゲンヒーターは、タングステンに電気を流して高温にさせて主に近赤外線の波長を出すヒーターです。カーボンヒーターと同様に不活性ガスが封入されたガラス管が用いられています。
約2,000℃以上の高温でとてもパワフルですが、激しい光を伴う、突入電流があり寿命が短いなどの弱点もあるヒーターです。
遠赤外線ヒーターは加熱装置でも数多く使用されています。加熱装置を設計するにあたっては以下の要素も交えて、総合的に判断していくことが大切です。
この他にも前工程、後工程とのやり取り、生産タクト、加熱装置の設置スペースなど検討が必要な項目は多数ありますが、まずは加熱対象のワークがどの条件で処理できるか明確にしましょう。加熱条件を見つけるために最も効果的なのが簡易的な加熱テストの実施です。
TPR商事ではテストラボ(名称:サーマルテクノセンター)で加熱装置設計に役立つ加熱テストを実施できます。セラミックヒーター、カーボンヒーター、ハロゲンヒーターの3つの熱源が使用できる「多目的バッチ炉」などデモ機を豊富に取り揃えており、複数の熱源を比較しての検証が可能です。
遠赤外線ヒーターを導入する際は、加熱対象のワークとの相性を考えることが大切です。ワークそれぞれで吸収波長域が異なるため、遠赤外線ヒーターでの加熱よりも近赤外線ヒーターもしくは対流や伝導での加熱方式が効率的な場合もあります。
もし遠赤外線ヒーターの導入や加熱装置の設計でお困りであれば、TPR商事までお気軽にお問い合わせください。長年培ってきた加熱分野での知識や経験をベースに、加熱テストの実施から具体的な装置設計、納入までトータルでサポートいたします。