
「焼鈍し・焼入れ・焼戻し」どれも似たような名前ですが、実は熱処理の目的や手法は大きく異なります。これらの処理を正確に理解することは、製品の品質を左右する重要なポイントです。
本記事では、アニール(焼鈍し)、焼入れ、焼戻しの違いや役割について、初心者にもわかりやすく解説します。それぞれの熱処理がどんな目的で行われるのか、そしてどのような材料に適しているのか、比較しながら整理していきます。
アニール(焼鈍し)と混同しやすい処理に、焼入れと焼き戻しがあります。似たような名前ですが、それぞれの処理には明確な違いがあり、正しく理解することが大切です。
例えば、アニールは内部応力の除去や加工性の向上が目的ですが、焼入れ・焼戻しは硬度や強度のバランスを調整するために行われます。
熱処理の違いを正しく理解することが、目的に合った最適な処理を選定する上でとても大切です。

アニールは、素材を一定の温度まで加熱した後、時間をかけてゆっくり冷却する処理です。金属だけでなく樹脂にも用いられる処理で、日本語では「焼鈍し(やきなまし)」と呼ばれます。
透明樹脂(ポリカーボネート、アクリルなど)は、成形時に応力が内部に残りやすく、放置するとクラックの原因になります。こうした応力を除去するためにアニールが実施されます。特にエンジニアリングプラスチックや熱硬化性樹脂では、耐久性向上に効果的です。
アニールはこうした問題を未然に防ぎ、製品の安定性や耐久性を高める処理です。詳しい解説は以下の記事で行っていますので、合わせてご覧ください。

焼入れは、金属を高温で加熱し、急冷することで高い硬度を得る処理です。特に工具や金型、構造部材など、高い耐摩耗性や強度が求められる部品に対して行われます。主な目的は以下のとおりです。
鋼材を加熱するとオーステナイトと呼ばれる状態になります。これを急冷することでマルテンサイトという硬い組織が生成され、耐久性の高い素材が得られます。金属の加熱と急冷によって硬度が高い鋼材に仕上げるのが焼入れです。
ただし、急激な冷却は内部応力の蓄積を引き起こし、割れやすくなるのがデメリットです。この応力を取り除くために、次に紹介する「焼戻し」が必要になります。
焼戻しは、焼入れ処理後の金属に適度な熱を加えて、硬度を調整し、靭性(粘り強さ)を回復させる処理です。低温から高温まで、目的に応じて焼戻し温度が設定されます。主な目的は以下のとおりです。
焼戻しを行うことで、マルテンサイト組織の不安定な部分が整い、全体として安定した性質となります。粘り強さが増すため、外力に対しても割れにくくなるのがメリットです。高い硬度と適度な粘りのバランスを取るためには、焼入れと焼戻しの組み合わせが不可欠となります。
| 処理名 | 主な目的 | 対象素材 | 処理温度 | 特徴 |
| アニール(焼鈍し) | 残留応力の除去 | 樹脂・金属 | 低~中温 | ・冷却は緩やかに行う・樹脂でも行われる |
| 焼入れ | 硬化 | 鋼・合金 | 高温→急冷 | ・急速冷却・金属のみで行われる |
| 焼戻し | 硬度の調整、粘り強さの回復 | 焼入れ済みの金属 | 低~中温 | ・焼入れ後の処理・繰り返し処理あり |
上の表はアニール(焼鈍し)、焼入れ、焼戻しを比較した表です。同じような工程名でも明確な違いがあることがわかります。
アニールは金属だけではなく、樹脂でも行われる処理です。金属からの軽量化が目的であらゆる分野で樹脂化が進んでいる今日において、製品内部の残留応力を取り除き、寸法安定性や強度・耐久性を向上させるアニールは重要性が増しています。
アニール処理については、以下のサイトでも解説していますので、ぜひお読みください。
参考記事:TPR商事(イプロスサイト)『【お役立ち情報】アニール処理とは?遠赤加熱による品質向上』

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